遺言書は相続人同士のトラブル回避のために活用されることの多い生前対策のひとつですが、近年では遺言書をご夫婦で一緒に作成したいというご相談を頂くことが増えてきました。
しかしながら、民法では「2人以上の者が同じ証書の中で遺言を行うことはできない」と定めており、たとえご夫婦であっても同一の遺言書を共同して作成することはできません。もしも以下のようなケースに該当するのであれば、遺言書をご夫婦それぞれで作成されることをおすすめいたします。
- 子供がいない
- 親族と疎遠である
- 財産を夫婦それぞれで所有・管理している
- 婚姻の届出をしていない、事実婚の状態である
ご夫婦それぞれで遺言書を作成する際は、公正証書遺言にて作成すると安心です。また、法的に有効な遺言書を作成するために、遺言書について詳しい知識をもった専門家に相談するとよいでしょう。
遺言書がないことで起こりうるトラブル
遺言書を作成しないままご夫婦ともに逝去された場合、ご夫婦の間にお子様がいればそのお子様が相続人として財産を受け継ぐことになりますが、お子様がいない相続の場合は、ご夫婦の両親・祖父母、ご兄弟へ相続権が移ります。このような状況だと、以下のようなトラブルが生じる可能性が考えられます。
ご両親やご兄弟が認知症を患っている
ご夫婦が逝去される年齢にもよりますが、相続権を得たご両親やご兄弟が認知症を患っている場合もあります。相続手続きは法律行為のため、相続人が認知症等の発症により判断能力が十分でないとされた場合、ご自身で手続きを行うことはできません。このような場合は、代理人となる成年後見人を家庭裁判所に選任してもらい、遺産分割協議などを行うことになります。
相続財産が自宅しかない
相続財産がご自宅しかない場合、相続人同士での分割が難しくなると考えられます。
ご自宅を売却し現金化して分割する場合、もしそのご自宅に居住中の方がいれば退去しなければなりません。売却しないのであれば、自宅を相続した方が遺産分割の額に応じた現金をその他の相続人に支払う方法もありますが、その場合は多額の現金を準備する必要があります。いずれの方法でも相続人同士で揉めてしまう可能性があります。
お子様のいないご夫婦が逝去された際に発生しうるトラブルについてご紹介いたしましたが、お子様がいらっしゃる場合でも、遺言書がないことで思わぬトラブルが発生してしまう可能性も十分に考えられます。
遺言によってご自身の財産についての希望を明確にしておけば、このような揉め事を回避することにつながります。お元気なうちに、ご自身の意思を記した遺言書を作成することをおすすめいたします。